小麦粉をこねたくなるのはきまって冬だ。中でもイーストを使って作るパンやピザが好き。作ったことのある人ならわかると思うが、パンは焼く前からパンの顔をしている。こねているうちに手の熱が生地に伝わり、粉っぽかった全体がしっとりとまとまり、ひとつの形をなしてくる。一次発酵を済ませ元よりもはるかにふくらんだ生地を見ると、満足感とともに畏敬のような不思議な気持ちをおぼえる。イースト菌の入った生地を扱うことには、どこか治癒的な作用があるように思う。
電気圧力鍋が我が家に来てしばらくしてから「発酵モード」の存在が認知され、小麦料理がより手軽になった。イースト菌は人肌くらいの温度で活動するので、こねたあと常温で置いておいてもふくらんでくれる。でも、発酵モードで温度と時間を設定しておけば、あとはピーと鳴るのを待つだけでいいというのは楽だ。

家庭で焼くピザの楽しみは、生地の配合が自由にできること。小麦粉、塩、水、イーストという少ない材料で作る生地もあるし、オリーブオイルや砂糖が入ることもある。前者はイタリアのナポリ風、後者はアメリカ風の配合であるらしい。
イタリアのピザ職人が作る生地は水分をたくさん含む高加水の生地。これをのばし、高温のオーブンで一気に焼き上げるのは職人技だ。確かに、こねるのに苦労するくらい水を含ませたピザ生地のほうが、焼きあがりが空気を含んで美味しくなるように思う。
ピザ職人は認めてくれないかもしれないが、炊いたご飯を生地に入れるのもおいしい。小麦だけで作ったときよりも、モチモチと噛みごたえのある生地になる。ごはんの量が多いとべたべたしてこねづらいので、手のひらにふわっと握れるくらいの量を入れる。
具材はケチャップで作ったソースにハム、モッツァレラ、バジルというシンプルなものもいいし、豚肉や玉ねぎを炒めてがっつり感を出すのもいい。変わり種だがイチオシなのは梅干し。生地、チーズ、トマトソースという定番の材料でつくられるやわらかい風味の中に、果肉の食感とすっぱさがアクセントになる。おにぎりみたいだけれど、これが合う。
ピザと比べると、パンは難しい。ときどきピザでなくパンが食べたくなって焼いてみるのだけど(これもフライパンで)、焼いているときの香りはとてもいいのに、出来上がったものを割ってみると生地が詰まった感じがして、パン屋さんのパンにはならない。
ピザはパンほどシビアではないし、詰まった生地でもモチモチして美味しく感じる。二次発酵はあってもなくてもOK。あるもので気楽に作れるピザが好きだ。
ピザ生地の材料を見ていたら、どれも太陽に関わりがあることに気づいた。小麦粉、天日塩、オリーブオイル、常温で発酵するドライイースト。まるく広げて天火で焼くピザは、どこか太陽を思わせる。
フライパンピザはひっくり返さないのが原則だが、あるときほんの出来心で、具材をのせたあとのピザをひっくり返してみたことがある。すでに溶けていたモッツアレラチーズが外側に流れ出し、生地の上からほとんど消えてしまった。慌てて、じゅうじゅういっているチーズをかき集めた。チーズはカリカリになってしまっていたが、焼けたピザに改めてのせてみたら思いのほか評判がよかった。ピザは本当におおらかだ。
次のピザをひっくり返すか迷っている。

